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シャーリー・マクレーン主演の『ココ・シャネル』、オドレイ・トトゥが若き日のシャネルを演じた『ココ・アヴァン・シャネル』、そしてシャネル・イヤーの大トリを務めるのがこの『シャネル&ストラヴィンスキー』だ。

シャネルの人生にスポットライトを当てた前2作に比べて、本作はちょっと気色が違う。

デザイナーのココ・シャネル、作曲家のストラヴィンスキーという同時代に居合わせたふたりの寵児が、アーティ ストとして、男女として激しくその感性をぶつけあう。そのほんの一瞬の火花を見逃さず、それぞれの体内に流れる全く異なるメロディーを丹念に同期させてい くのである。


chanel2.jpg監督を務めるのは、『ドーベルマン』のスタイリッシュかつ破天荒な映像で世界を驚愕させたヤン・クーネン。


今回は同じ人間の演出とは思えないほどの格調高さが香る。作り手がふたりの超人に心酔し、その奇跡的瞬間の再現に息を潜めて立ち会っているかのような印象を受ける。

ただ、そのクーネンに背負わされたあまりの重責のせいか、中盤には男女のもどかしい縺れ合いが続き、いささか冗長な語り口に陥ってしまうのだが...

いや、正直、そんな細部はどうでもいいのだ!

というのも、本作はそれらの試行錯誤が瑣末に思えるほど、僕らが芸術を語る上で欠かせない歴史的大事件=ストラヴィンスキー「春の祭典」初演をフィルムに再現しているのだから。


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ストラヴィンスキー作曲、ニジンスキー振り付けによるこの新作バレエが与えた衝撃は大きい。バレエの伝統を覆す奇異なるステップ、白塗りのメイク、それに美しい情景やストーリーを語るのではなく人間の内なる感情の高鳴りにこそ肉薄した変拍子サウンド。。。


観客はすぐさま計り知れない混沌に陥った。ある者は罵声を浴びせて席を立ち、またある者は全身全霊を込めて賞賛の拍手を送る。このときパリのシャンゼルゼ劇場は両者の喧騒で演奏自体が聴こえなくなるほどだったという。

しかしこのときココ・シャネルは確かに「春の祭典」に何かを感じ取ったのであり、そこから始まる蜜月が彼女に「N°5」の香りをもたらすインスピレーションともなった(と本作は推定する)。


これがアーティストたるヤン・クーネンにとって興奮に値する化学変化だったことは想像に難くない。『サイコ』や『ジョーズ』といった傑作映画音楽に影響を与えた、あの音楽の正体が知りたい。そして、当時そこに漂っていた志向の香りを体感したい。ヤン・クーネンは当時の目撃者でありたいと心から欲し、誰もやらないからこそ今ここに、その場面を自らの手で出現させたのだろう。


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いつの時代も芸術は人間を激しく突き動かす。

ある意味、クーネンの脳内には最初から最後まで、あの衝撃的な「春の祭典」が鳴りつづけていたのかもしれない。

シャネル&ストラヴィンスキー

二人の芸術家の出逢いが、「N°5」と「春の祭典」を生み出した。

http://www.chanel-movie.com/
12月19日(土)よりBunkamuraル・シネマ他にてロードショー

【映画ライター】牛津厚信

振付家モーリス・ベジャールについて、さも前から知っていたかのようにプレス資料の文言を使いまわすこともできるのだが、それはやめておこう。彼については何も知らなかった。それが僕の正直なところの立ち位置である。

そんな自分が『ベジャール、そしてバレエはつづく』の不思議な手触りの中に彼の息遣いを感じている。と言っても、ここに現れるのはベジャール本人ではない。彼は2007年、多くの人に惜しまれながらこの世を去ったという。

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ではこのドキュメンタリーの主役は誰なのか?

そこにはオープニング早々、苦悩する人々が映しだされる。ベジャールが創設したバレエ団の面々である。

ひとつの時代が幕を下ろすと、また次なる時代が幕を上げる。そうして歴史は旋回していく。そこで残るもの、消え去るもの。たとえそれが世に絶賛されたベジャールであったとしても、その功績など長大な人類の歴史からすればほんの一瞬に過ぎない。重要なのは未来である。いかにそれを受け継ぎ、後世に伝えていくか。ベジャールの真価は残された者たちによって決定づけられると言っても過言ではない。

スイスのローザンヌを本拠地にするバレエ団は、ベジャールを愛する地元のファンたちを落胆させぬよう、ベジャールの礎を守り、そしてさらなる新たな方向性を模索していかねばならない。そして彼らはベジャール没後はじめてとなる公演で市民の審判を仰ぐこととなる。

はたして彼らは次なる歴史の扉を押し開くことができるのだろうか?


bejart02.jpgカメラが、過去と未来の両ベクトルの狭間で再出発を果たそうとするバレエ団の姿を映し出す。その葛藤の姿はさすがストイック、かつプロフェッショナル。

迷ったら初心に戻れとよく言うが、バレエ団のメンバーにとっての初心とはベジャールの指導であり、言葉だ。このドキュメンタリーは何らかの壁を越えねばならない彼らの脳裏に「ベジャールの影」が現れる様子をつぶさに捉え、そこには存在しえないのに、どういうわけかベジャールの亡霊がそこに漂っているかのような雰囲気さえ醸し出す。

存在しない人物の表情を、多くの証言によって導き出す...。これは文学、演劇、映画が培ってきた伝統的な表現手段でもある。それにのっとって紡がれるドキュメンタリーであるがゆえ、たとえ僕がモーリス・ベジャールについて何も知らなかったとしても、そこには僕自身が上映中ずっとベジャールと対峙していたかのような、不思議な映画的手ごたえが残るのだろう。

バレエに興味ある方のみならず、会社や団体で組織を率いなければならない方、それに前任者の呪縛からなかなか解き放たれずにいる中間管理職の方まで、この映画には何かしらの「歴史を更新する」ヒントが詰まっているはずだ。

そして本作に触れた誰もが、やっぱり同じく、モーリス・ベジャールの息遣いにじかに触れたような感覚を味わうのだろう。

bejart03.jpg たとえ彼のことを何ひとつ知らなかったとしても。


ベジャール、そしてバレエはつづく

モーリス・ベジャール・バレエ団の新時代の幕開けに迫る
感動のドキュメンタリー。

http://www.cetera.co.jp/bbl/
12月19日(土)よりBunkamuraル・シネマ他にてロードショー


【映画ライター】牛津厚信



誰がため

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デンマークの第二次大戦秘話を映画化

daregatame01.jpg 第2次大戦は多くの悲劇を生んだ。それは、敵同士として戦火を交えた者だけではなく、銃後に生きる人々にも過酷な運命を齎した。本作は、占領下のデンマークで、抵抗組織の暗殺者となった二人の男たちの実話を、当時を知る関係者の目撃証言に基づいて映画化した作品で、本国デンマークで2008年度の観客動員1位を記録した硬派の力作である。

 1944年。デンマーク、コペンハーゲン。打倒ナチスを掲げる地下抵抗組織<ホルガ・ダンスケ>に、23歳のベンと・ファウファウアスコウ=ヴィーズ、通称フラメンと、33歳のヨーン・ホーウン・スミズ、通称シトロンという二人の男がいた。彼らの任務は、ゲシュタポやナチに協力している売国奴の暗殺。二人は、組織の上層部から命じられ、次々とターゲットを抹殺していった。
 だが、彼らの直属の上司アクセル・ウィンターから、ドイツ軍情報機関の将校二人の暗殺を命じられてから、事態は一変する。標的のギルバート大佐と対峙したフラメンは、彼との対話から"何かおかしい"と感じ、初めて任務を実行するのを躊躇う。そして、動揺を残したまま、もう一人のサイボルト中佐の暗殺に向かった彼は、相打ちとなり重症を負う。これにより、それまで直接人を殺したことのなかったシトロンが、ギルバート暗殺に赴き、初めて自ら手を下した。
 やがて、ゲシュタポの報復が激化し、組織のメンバーが次々に拘禁・処刑されると、ウィンターは、フラメンの恋人の諜報員ケティを密告者と断定し、彼らに彼女の暗殺を命じた。彼女はウィンターの運び屋であると同時に、ゲシュタポのリーダー、ホフマンとも繋がる二重スパイだというのだ。ケティを問い詰めたフラメンは、恐るべき事実を知らされる。ウィンターの暗殺任務の中には、ナチや裏切り者にまぎれて、ウィンターにとって都合の悪い人間がリストアップされていたと...。自分達は組織に騙され、無実の人間を殺したのか?果たして、ケティは本当に信頼できるのか?自らの正義に疑念を持ち、苦しむ二人に、さらに過酷な運命が待ち構えていた...。

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サスペンスの中に息づく人間のドラマ

daregatame03.jpg 戦争は、人間が人間を殺すという非人道的な行為である。それを止めるべく、戦いに身を投じた人間もまた、自らの手で人間の命を奪う。その果てに待つのは、ボロボロに傷ついた心...。正義の信念の下に、暗殺者の道を選んだ二人が、自らの心の死と闘いながら、ひたすら人間らしく生きようとする姿が、感動を呼ぶ。

 映画は、そんな彼らの心の軌跡を、様々なエピソードを通じて、丁寧に描き出す。二重スパイである恋人ケティへの疑惑に揺れながら、愛を信じようとするフレメン。離れ離れの生活から、妻と娘に去られ、妻の恋人に、彼女を不幸にしないでくれとに、脅すように頼み、姿を消していくシトロン。ギリギリまで追い詰められた彼らが、必死に愛を求め、愛に傷つく姿が、彼らの人間性を浮き彫りにする。フレメン役のトーレ・リントハート(「天使と悪魔」)、「007/カジノ・ロワイヤル」の悪役ル・シッフル役で一躍世界に知られた、シトロン役のマッツ・ミケルセンーデンマークを代表する二人の国際派俳優が、揺れ動く二人の心理を、陰影深い演技で見事に演じ、深みのある人間ドラマを作り出す。
 また、権力者の走狗となった事を知り、自身の行為に疑念を持ちながらも、自らの正義と信念を貫き、上層部の意向を無視して、ゲシュタポのリーダー、ホフマン暗殺を決行しようとするに至る二人の行跡を軸に、数々の暗殺場面がサスペンス豊かに描かれていく構成が、エンタティンメント的な面白さをも生み出し、手に汗握るサスペンス・アクションとして観客を楽しませる事も忘れていないのも流石だ。"(戦争という非常時の)生き方の選択""組織の中の個"といった現代にも通じるテーマを、押し付けるのではなく、見る者を楽しませながら、自然に胸に問いかけるような作風は、映画作りに熟知した大人の視点を感じさせる。
 本作は、デンマークの王国公文書館が資料を公開しなかっため、60年余に渡り秘められていた出来事を、丹念な取材を重ねて映像化した作品である。第二次大戦の生んだ悲劇を今に伝えようととする作り手たちの懇親の思いーそれは、世界中のどこかで戦火に傷つく人々が存在する現在(いま)を生きる我々が、忘れる事なく、明日へ伝えていくべきもの。その思いが、一人でも多くの方に伝わるのを願ってやまない。作品のヒットを祈りたい。

daregatame04.jpg第二次大戦の悲劇は、決して過去の遺物ではなく、世界中のどこかで戦火が巻き起こる現在(いま)を生きる我々が、忘れる事無く胸に刻み込むべきもの。その事実を今に伝えようとする、作り手の渾身の思いが、一人でも多くの方に伝わるのを願ってやまない。

「誰がため」
FLAMMEN&CITRONEN
2008年 デンマーク=チェコ=ドイツ合作
カラー 136分

監督/オーレ・クリスチャン・マセン
製作/ラース・ブレード・ラーベク
脚本/オーレ・クリスチャン・マセン、ラース・K・アナセン
撮影/ヨーン・ヨハンセン
音楽/ハンス・メーラー
編集/サアアン・B・エベ
出演/トゥーレ・リントハート、マッツ・ミケルセン、クリスチャン・ベルケル アルシネテラン

配給:アルシネテラン

12月、シネマライズほか全国順次ロードショー

公式HPhttp://www.alcine-terran.com/tagatame/

【映画ライター】渡辺稔之